硝子体注射(抗VEGF治療)
硝子体注射のイメージ
皆さん「眼に注射」と聞くと、痛そうで怖いイメージがあると思います。
さらに、注射のお薬は非常に高額で、目の中に入れたお薬の効果は2カ月程度しか続ず、繰り返し注射する必要があります。
そのため、患者様の不安や負担をできるだけ減らし、長期的に治療を続けられることが大切だと考えています。
当院では、硝子体注射に使う針を一般的な30G(ゲージ)よりもさらに細い32G(太さ0.23mm)を使用します。針が細いほど痛みを軽くすることができます。
注射の前に複数回、目薬の麻酔を行いますのでご安心ください。
(麻酔の効果には個人差があり、体質によって効きにくい方もいます。)
硝子体注射の適応疾患
- 加齢黄斑変性(滲出型)
- 糖尿病黄斑浮腫
- 近視性脈絡膜新生血管
- 網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫
- 網膜静脈分子閉塞症に伴う黄斑浮腫
に対して行います。
これらの病気では、体の中にあるVEGF(血管内皮増殖因子)という物質が原因になることが分かっています。
VEGFが増えると、新生血管(正常でない血管)が増えたり、血管から血液成分が漏れ出し、網膜の中心部分である黄斑部に浮腫(むくみ)が生じたりします。
VEGFに対する抗体のお薬を眼内に注射することで、これらの作用を抑えることができます。
硝子体注射の種類と費用
- アイリーア
- ルセンティス
- ラニビズマブBS
を使用します。
アイリーアは2012年、ルセンティスは2009年に承認されて以来、たくさんの方に使用してきました。
最近では、ラニビズマブBS(ルセンティスのバイオシミラー)も使用可能となり、選択肢が増えました。
(バイオシミラーとは、遺伝子組み換え技術、細胞培養技術を用いて製造した、たんぱく質を有効成分とする医薬品で、先発品と同等の効果を持つ後発品のようなものです。)
病気の状態や治療の負担を考え、患者様それぞれに合ったお薬を選んで治療します。
3割負担の方 | 1割負担の方 | |
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アイリーア | 約45,000円 | 約15,000円 |
ルセンティス | 約40,000円 | 約13,000円 |
ラニビズマブBS | 約27,000円 | 約9,000円 |
お薬のみの金額です。
硝子体注射当日の流れ
基本的には予約制ですが、病気が悪化し、早急に治療が必要な場合は受診当日でも注射可能です。
注射は月に1回、3カ月連続で行うのが一般的です。
その後は薬の効果を確認しながら、2~3カ月に1回程度で継続します。
状態が落ち着けば、さらに注射の間隔を延ばすこともできます。
(近視性脈絡膜新生血管の場合は、1回の注射で落ち着くことが多いです。)
注射は、白内障手術に準じた消毒方法で、クリーンルームで行います。
1.眼の周りの皮膚を消毒します。
2.顔に滅菌された布をかけます。
3.開瞼器(まぶたを広げる器械)でまぶたを広げ、眼球を消毒します。
4.白目の、針を刺しても問題ない場所に針を刺し、眼内に薬液を入れ、終了です。
注射は数秒、あっという間に終わります。消毒などの準備を含めても5分かからない程度です。
注射の後は、皮膚の消毒をふき取り、抗菌薬を点眼して眼帯します。
(どうしても眼帯できない方は、そのままお帰りになることもあります。)
硝子体注射後の注意事項
- 注射後は、首から下のシャワーだけにしていただきます。
- 洗顔、洗髪は翌朝から可能です。
- 抗菌薬の目薬をお出ししますので、当日から4日間、点眼していただきます。
- 注射当日は、白目が赤くなったり、薬液と一緒に空気の泡が目に入るため、黒い影が動いて見えたりしますが、自然によくなりますので心配ありません。
-
注射による合併症は非常にまれですが、ゼロではありません。
細菌性眼内炎、網膜剥離、網膜色素上皮裂孔、網膜血管閉塞などの報告があり、重篤な視力障害を引き起こす可能性があります。 - 注射のお薬が血管に作用する成分のため、脳梗塞や心筋梗塞の既往がある方には慎重に投与する必要があり、ご本人ご家族とよく相談してから決めます。
- 注射翌日になっても、強い痛みや見えにくいなどの症状がある方は受診 いただくか、遠慮なく当院にご連絡ください。
- 初めて注射する方は、翌日の診察をお勧めしています。
加齢黄斑変性
- 加齢により網膜の中心部が傷つき、真ん中が見えにくくなる病気です。
- 日本では失明原因の第4位です。
- 50歳以上になると発症しやすくなり、高齢になるほど増えます。
- 滲出型と萎縮型があります。
- 萎縮型は、加齢とともに網膜の機能が低下し、老廃物が蓄積することで 徐々に視力が落ちます。加齢による変化のため有効な治療法はありません。
- 滲出型は、網膜の下に新生血管(異常な血管)が生じます。新生血管はもろいので、破れて出血したり、血液成分が網膜に漏れ出て水がたまったりむくんだりして、網膜が傷つきます。新生血管の活動性を抑えるために、 硝子体注射を行います。
- 加齢黄斑変性は、喫煙、遺伝、紫外線による暴露、生活習慣などが原因と考えられています。
禁煙は重要です。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病をしっかりと治療し、運動、バランスの良い食事を心がけていただくことが大切です。必要に合わせて、科学的根拠に基づいたサプリメント(ルテイン、ビタミン、亜鉛など)の摂取をお勧めしています。
網膜静脈閉塞症
- 網膜の静脈の流れがせき止められて起こります。
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症、血液疾患をお持ちの方に多く発症します。
- 網膜中心静脈閉塞症と、網膜静脈分枝閉塞症があります。
- 一度出血した部分は元に戻りません。出血の範囲や程度にもよりますが、視力が低下して、見えにくい部分が残ります。
- 根本的な治療はありませんが、病気が広範囲に及んだ場合はレーザー治 療が必要です。
- 黄斑部(網膜の中心部)にむくみを合併することが多く、見え方を改善 するために硝子体注射を行います。
- 眼圧が上昇したり(血管新生緑内障)、出血が目の中に広がる(硝子体 出血)場合には、手術が必要になることもあります。
糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫
糖尿病網膜症
- 高血糖が長く続き、網膜の細い血管が傷害され、網膜に出血したり、 沈着物がたまったりして起こります。
- 血糖コントロールが悪いと、5~10年で起こりやすいとされています。
- 日本では失明原因の第2位です。
- 最初は無症状なので、ご自身で気付くのは難しいです。見えづらくなってからでは、すでに進行していることがあります。
- 進行した網膜症は、レーザー治療(網膜光凝固術)が必要です。さらに進行すると、硝子体手術が必要になることもあります。
- 糖尿病と診断されたら、すぐに眼科を受診し、眼底検査を受けていただくことをお勧めします。
糖尿病黄斑浮腫
- 糖尿病網膜症の病期に関係なく発症します。
- 黄斑部(網膜の中心部)にむくみが生じるため、歪んで見えたり、視力 が下がります。
- 歪みを減らし、少しでも見やすくするために、硝子体注射を行います。 原因となる血管にレーザー治療をしたりすることもあります。
近視性脈絡膜新生血管
- 近視が強い方に起こりやすくなります。
- 若い方にも見られます。
- 網膜の下の脈絡膜という組織が引き伸ばされ、黄斑部(網膜の中心部)に 新生血管が生じて、出血やむくみを起こします。ものが歪んで見えにくくなります。早めの硝子体注射が望ましいです。